活動報告|キャップ式磁性アタッチメント(MACS)

磁性アタッチメントの設計指針-インプラントへの応用を中心に-

○田中譲治 星野和正
日本インプラント臨床研究会
日本大学松戸歯学部第2解剖学教室

緒言

原子レベルの磁気エネルギーを維持力とした磁性アタッチメントは、これまでの機械的支台装置では発揮できなかったさまざまな特性があり、第 3 世代の支台装置として優れた支台装置として認められている 1,2)。しかしながら、補綴設計に関しては、“磁力”というまったく異なる維持力発現機構を利用しているため、使用にあたっては、これまでいわれている補綴設計の考え方だけでは磁性アタッチメントの特性を最大限に引き出すことはできないと考えられる。そのため、我々は機能目的に基づき磁性アタッチメントを Type R、TypeSR 、Type BSR の 3つに分類し設計の指針とすることが重要であることを報告してきている 3,4)(表 1)。さらに今回、臨床応用していく上で、簡便に全部床義歯及び部分床義歯の設計指針をたてることのできる設計チャートを考案し、この分類に基づいて検討したので報告する。

方法

全部床義歯および部分床義歯における設計チャートを支台装置としての機能目的による磁性アタッチメントの分類(表 1)に基づいて考案し、臨床応用するとともに検討する。なお、磁性アタッチメントにおいてはあらかじめマグネットにレジンキャップが付与されている MACS(Magnetic Attachments of a Cap Shape)Systemを使用する。

結果

I 全部床義歯における設計指針

設計チャートとしては、上顎と下顎における設計は異なる観点からの評価が必要であるために上下顎別に示した。また、義歯の維持安定性から左右支台位置の対称性を加味して、オーバーデンチャーを保持するのに必要最小限のインプラント埋入本数と考えられる 2 本と 4 本のケースに区別した。診査項目としてはシンプルにするため臼歯部の骨量および顎堤状態の 2つのみとしたなお、骨量が十分とは臼歯部において高さ 10㎜以上幅 5㎜以上あることを示す。臨床応用としては代表症例として下顎 Type R 症例を術式とともに図 1~9に示す。

図 1 外科的侵襲などを考え、2 本のみのインプラントを使用。
臼歯部の骨量が十分でないため、設計チャートにより維持のみを期待した Type Rの設計とする。すなわち前歯部にインプラントを植立することにより支持は粘膜に期待し、インプラント支台に対する負担を最小限にする設計を計画。

図 2 インプラント用 MACSSystemはレジンキャップ付マグネットと各種インプラント対応可撤式キーパーで構成されており、磁性アタッチメントを容易にインプラントに応用できる構造となっている。維持力は約 700gf。

図3 MACS Systemにおいてはキーパー側面とキャップには間隙が確保されており側方力を逃がす構造となっているため容易にType SR 、Type R仕様とすることができた(a図)。なお、把持をも期待した Type BSR仕様にするには b図のようにキーパー側面と義歯内面とに間隙を空けない構造とするがMACS Systemを用いた場合でも、マグネット取り付け後に隙間にレジンを追加することにより、比較的容易に Type BSR の構造に変更することができた。

図 4 磁性アタッチメントは他の維持装置と異なり、植立位置や方向が多少悪くとも問題がないため、オペは比較的容易であった。オッセオインテグレーション獲得後、可撤式キーパーを接続した状態。義歯安定も考えて 2本使用の場合は 2|2相当部へ植立した。

図 5 レジンキャップ辺縁を調整後、レジンキャップ付マグネットを可撤式キーパーに吸着させる。この状態で義歯の印象採得を行う。

図 6 製作された模型。通法に従い義歯を製作したのち、マグネットを取り付けるための即時重合レジンのスペースを確実にとるため、義歯粘膜面凹部を 1層削る。

図 7 義歯粘膜面凹部に即時重合レジンを盛り、レジンキャップ付マグネットが吸着させてある口腔内に適合させる。なお、この操作はレジンキャップと義歯内面凹部の位置決めのためなので、即時重合レジンは少量のみでよく、遁路をあける必要もなかった。

図 8 レジンキャップにより、アンダーカットへの流れ込みを防止できるため、安心して即時重合レジンが確実に硬化するまで待つことができた。なお、未重合で外すとマグネットの浮き上がりの原因となるので十分注意した。

図 9 硬化後、義歯を外し、レジンキャップ辺縁と義歯粘膜面凹部との多少の隙間を修正することにより、容易にマグネット・オーバーデンチャーが完成された。
MACS System においてはあらかじめレジンキャップとキーパー側面に間隙が確保されているため、簡便に把持を期待しないType Rの設計とすることができ、義歯に加わる有害な側方力が直接フィクスチャーに加わることを回避することができた。

II 部分床義歯における設計チャート

磁性アタッチメントがインプラント支台と天然歯支台との併用が容易であるというメリットを活かすために、天然歯への適応も加味した設計指針とした。また、欠損歯列を考えるにあたっては、咬合支持域を部位と共にあらわしやすい Eichner の分類を利用した。なお、支台装置としての機能目的の評価判定チャートも示す。

*ユニバーサルサポート 5,6)とはすべての人のために使いやすさと優しさを追求し、欠損があるという障害を意識させないことを重視した補綴設計概念(Tanaka & Hoshino)。
**磁性アタッチメントによる緩圧的義歯設計はこれまでいわれているフレキシブルサポートの概念とは全く異なるため従来のフレキシブルサポートと混同されないようにフレキシブルデザイン....と呼ぶ。それにともない磁性アタッチメントによる非緩圧的義歯設計をリジッドデザイン....と呼ぶ。

考察

I 全部床義歯における設計チャート

このチャートを用いることにより、磁性アタッチメントを使用した全部床義歯の設計を考えるにあたって、設計時に最低限必要となる考慮事項、すなわちインプラントの埋入本数および骨量、顎堤状態によって変わってくる適切な埋入位置 7,8)や義歯形態、そして使用する磁性アタッチメントにおける最適な機能目的を、端的に示すことができると考えられた。

加えて、実際の臨床においてこの設計チャートにより決定された補綴設計を製作するにあたって MACS System は、機能目的にあった磁性アタッチメントの構造にすることが容易にでき、高い有用性があると考えられた。

II 部分床義歯における設計チャート

この部分床義歯の設計チャートは、インプラント支台と天然歯支台との併用が容易であるというメリットを活かせ、また、部分欠損の設計で重要とされている咬合支持に関する事項に重点をおくことのできる高い有用性のある設計チャートと考えられる。すなわち、咬合支持を十分考慮に入れるため Eichner の分類を用いるとともに磁性アタッチメントの機能目的に基づく分類(Type R、Type SR 、Type BSR )をたくみに利用し、支台歯の状態や支台歯の位置や数などとともに簡便かつ的確に設計をたてられると考えられる。特に部分床義歯へのインプラントの応用については設計や支台装置の扱い方の難しさからこれまでほとんどなされていなかったが、この磁性アタッチメントの設計チャートを用いることにより、部分床義歯においてもインプラントを容易に応用することができると考えられた。

磁性アタッチメントは優れた支台装置として認められており、今後も広く応用及び使用されていくと考えられるが、補綴設計においては十分確立した指針が示されているとはいえない。磁性アタッチメント以外の支台装置では、維持力を得るためには必ず把持を必要とするため支台装置を使用する際には、義歯へ加わる側方力が支台装置にも加わる。そのため設計にあたっては支台歯への力学的配慮や、義歯の動きを可及的に小さくすることを最も重視した設計とする必要がある。しかし、磁性アタッチメントにおいては「把持なしで維持力を発現する」という特筆すべき性能があるので、必ずしも義歯の動きがすべて支台歯に伝達されるとは限らない。このため磁性アタッチメントにおいては従来からの設計の考えだけではこの特性を十分に活かせないと考えられる 9)。

この点、今回示した全部床義歯および部分床義歯の設計チャートは機能目的に基づいた磁性アタッチメントの分類を利用して考案されているため「把持なしで維持力を発現する」という特性を十分引き出すことができ、高い有用性があると考えられた 10,11)。

結 論

機能目的に基づいた磁性アタッチメントの分類を利用した全部床義歯及び部分床義歯の設計チャートは、設計にあたり磁性アタッチメントの特性を最大限に引き出すとともに簡便かつ端的に設計指針をたてることができると考えられた。

謝 辞

稿を終えるにあたり、MACS 研究会(http://www.macssystem.jp)の諸先生方に深く感謝申し上げます。

参考文献

1) 田中貴信,磁性アタッチメント第 1版,東京:医歯薬出版,1992:18-20,29-39.
2) 藍稔,水谷紘,石幡伸雄,中村和夫,磁性アタッチメントを用いた部分床義歯,東京:クインテッセンス出版,1994:28-42. 3) 田中譲治,星野和正,鳥居秀平,古市嘉秀,柏原毅,覚本嘉美,佐藤甫幸,小澤幸重,インプラントにおける磁性アタッチメントの応用-第 4 報 磁性アタッチメントの使 用目的による分類-,日本口腔インプラント学会誌,2001;14(2):313-321.
4) 田中譲治,インプラント支台のオーバーデンチャー.QDT 別冊インプラント上部構造の現在 Part3.2002:83-94.
5) Ronald M. (1988) Universal Design. Housing for the Lifespan of All People.Washington. D4C,U4S4 Department of Housing and Urban Development.
6) 田中譲治,星野和正,磁性アタッチメントによる欠損部審美補綴,歯科審美,2002;814(2):196-203.
7) Zitzmann NU, Marinello CP. (1999) Treatment plan for restoring the edentulousmaxilla with implant-supported restorations : removable overdenture versus fixed partial denture design. J Prosthet Dent. 82(2) pp. 188-196.
8) Mericske-Stern RD, Taylor TD, Belser U. (2000) Management of the edentulouspatient. Clin Oral Implants Res. (11) pp. 108-25.
9) TANAKA J., HOSHINO K., KAKUMOTO Y., OHTA Y. and Inoue T.:Clinical Application of Magnetic Attachments of a Cap Shape (MACS) System,5th World Congress for Oral Implantology Proceeding Committee Publidcation,Tokyo,2001:276~279.
10) 田中譲治,星野和正,谷本裕次:磁性アタッチメントにより変わるパーシャルデンチャーの設計概念;歯科技工,2002;30 (6):701~721.
11) 田中譲治:磁性アタッチメントを用いたインプラント補綴の設計指針;QuintessenceDental Implantology,2002;9(6):27~43.